|  鄭茶師のお茶は何時間置いても渋みが出ません。良いお茶を見分けるには長時間湯に浸すことが必要だといいます。長い間一緒に生活して結婚を決めるように、一番醜い部分も受け止めることができるのか、試すのです。
 |    「まず、このレンゲの内側部分の香りをかいで。それから外側の部分の香りをかいでごらん。終わったら、今度は立ち上がって香りをかいでみて」 
 言われた通りにレンゲに残った香りをくんくん……。
 
 まず内側を。 ……あ、新緑の香り。
 そして裏側を。 ……花の香りがする。
 最後に立ち上がって。……甘い、クリームみたい?
 
 空気に触れるほどに香りがどんどん甘くなっていく……。
 
 軽い眩暈がおとずれ、一瞬倒れそうになってしまいました。
 
 再度席につき、今度は口杯につがれた茶湯を味わいます。茶湯を飲み込んですぐ、あたたかいお茶なのに、ひんやりとした涼やかな感触を覚えます。
 
 雨が降った直後の森林の香りを感じ、その中に小花の甘い香りを感じました。ゆっくり目を閉じて耳を澄ませば、清らかな水の流れが今にも聞こえてきそうでした。
 
 
 
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